平日は 09:00-17:00 でデスクワークの人が、 週末だけ 25 kg の荷物を担いで山登りとか 80 km 歩く。 若いうちは何の問題もないでしょうが、 こんな無茶をしていたら足や腰を悪くするのではないでしょうか?
たしかに軍の人とかは普通にできるでしょうが、 それは毎日のトレーニング [1] をかかさないからです。
背負う荷物が少なければ少ないほど楽なのは、当たり前。 だから、今、時代は Ultralight Backpacking (ウルトラライトバックパッキング)。
その思想体系の概要を以下に述べます。
アメリカの backpacking 本では、 base weight (どんな時でも背負わなければならない荷物の量)により、 以下のような呼び分けをしています。
base < 5 pounds ... super ultra light (weight) base < 10 pounds ... ultra light (weight) base < 20 pounds ... light weightちなみに base weight 以外の概念もあり、名称は次の通りです。
base weight ... どんな時でも背負わなければならない荷物。 バックパック+寝袋+テント+調理道具他 pack weight ... base + 消耗品全部(食糧など)。 skin weight ... pack + 服や treking pole など全部(裸の状態)。 full skin out weight とか system weight とも言います。重さの話をする時は、たいてい base weight の話をしています。
背負う荷物が少なければ少ないほど楽なのは当たり前ですが、 実際に牛乳四本を背負ってみて下さい。これだけで 10 pounds です。 あなたは、これを背負い「一日 40 km × 四日」とか歩けるでしょうか?
従来の登山用荷物だと、こんなものではなく 20 kg やそこらは普通です。 ほとんど軍用の世界です。 ちなみに陸軍の新人教育では、 25 kg の背嚢(場合によっては + 兵器分の重さ)を背負って 100 km 行軍とかやります。 そういう世界観。
こんなの組織的な訓練をつまないと出来ないです。 たとえできたとしても、これを長年続けたら膝を壊すでしょう。
実際そういう人たちや、歳をとって具合が悪かったり、怪我をしたりして 従来の荷物を背負って backpacking できない人たちも、 ultralight で再び backpacking に戻ってこられて嬉しいと言った話があります。
Ultralight は実にさまざまな工夫が必要です。それが頭脳戦でとても楽しい。 あと、高級品ほど、おおむね軽くて性能のいいものがあるといえばありますが、 そこを創意工夫で安く何とかならないかというところも楽しいものです( ただ間違って必須の部分でけちると死ぬので「ほどほど」にですが)。
詳しくは 参考文献 を参照して下さい。
(0) 必須の道具を削ってはいけません。 地図やコンパス、雨具、First-Aide Kit、 非常食料 [2] 、水の対策道具、洗面道具など。
(1) バックパック、テント、寝袋 [3] の3つが最も重たい道具です。 この3つをそれぞれ 1 kg 以内に抑えます。
(2) 不要な道具を持ってはいけません。 また持つ道具は、できるだけ複数の用途に使えるように考えぬきます。 例:スコップはV字型ペグで、テントのポールはトレッキングポールで代用。
(3) その他いろいろについては 参考文献 を参照して下さい。 基本は乾燥食糧だろうとか、水は現地調達とか、コンロはどうするとか、 まぁいろいろ。
これは難しい設問です。
理論を適用することは、もちろん出来ます。 ようするに理論を理解して、私家版を考えるということです。 あとは通勤時をはじめとして日々の訓練と実験、 まずは家の近くで実験、そして本番に挑み、 微調整。これの繰り返しです。
前提条件が異なるので、本の丸写しは、たぶんだめです。というか死にそうです。
日本人の不得手なジャンルですが、 ここが楽しいと思えるかどうかが別れ目でしょう。
R. Jourdine の Beyond Backpacking がバイブルな存在だそうですが 大好評絶版中です。
D. Ladigin, "Lighten Up!" R. Jardon ed. "Ultralight Backpacking and Campling"は入手可能です。
前者は100ページくらいのイラスト一杯の本で簡単に読めます。お薦め。 後者は、もっと理論的に全分野を網羅した感じ。 白黒写真もけっこう載っていますが、全般的に字が多めです。
あっちの日常語でも hydration とか中学レベルじゃない単語続出だから どちらも中学レベルの英語では読めませんが、 文章自体は難しくはないです。辞書を引きながら読めば大丈夫でしょう。
J. Wiseman "SAS Survival Handbook"あと、Backpacing に直接は関係ないけど、サバイバルテクニックについては 元 SAS [4] 教官の J. "Lofty", Wiseman 著 "SAS Survival Handbook" を参照。 これ、2008 年後半には、また updated. するらしいぞ? 一応、日本語版がありますが、だいぶ古い版を元にしたものです( 日本語版を読んだことないので訳の質がいいのかどうかは不明)。
[写真や値段の参考] → 洋書
[1] | 「大丈夫か?」と思えるような女の子(新人)でも、 きちんと手順をふんで、トレーニングをつめば、 一年後には、 25 kg の背嚢(場合によっては + 兵器分の重さ)を背負って 100 km 行軍とかできるようになるそうですよ。 |
[2] | 非常用の一食分の米とかいう意味ではなく、 アメとかチョコレート、 コンデンスミルクなどコンパクトで瞬時にエネルギー変換可能なもの(糖)。 |
[3] | この3つの中では寝袋が一番値段が高いと思います。 暖かくて小さくて軽い寝袋は、それなりの値段がします。 でも良い寝袋でないと寒くて寝られないとか凍え死ぬとかのオチが待つので、 ここは妥協し過ぎるとまずいところ。 なお、暖かいところにしかいかないならテントと寝袋は要らないでしょう。 ハンモックとグルガナイフと背負うものだけとか(これでどうするのかは J. Wiseman の SAS Survival Handbook 参照)。 とどめに強者なら背負う道具なんて袋ならなんでもいいんだろうし。 |
[4] | SAS = Special Air Service。 イギリス陸軍(British Army) 特殊空挺部隊。 世界の特殊部隊の中で代表格。 本部はヘリフォード。 SAS の名を冠する連隊が4つあるが、 イラン大使館突入などで有名な実戦部隊はメインの第 22 SAS 連隊のこと。 22 SAS は 5 個戦闘中隊(squadron)からなる。 イギリス陸軍では単に regiment (連隊) といえば SAS のことを指す。 なお、 英語の辞書に「イギリス空軍(RAF: Royal Air Force) 特殊空挺部隊」 とか書いてあるのは間違い。リーダーズとか間違ってる。 ちゃんと調べて書いてない証拠ね。 |
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